小  説
15.変身// 14.まなざしの記憶// 13.ゴーストバスターズ// 12.世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド// 11.コインロッカー・ベイビーズ// 10.さようなら、ギャングたち// 9.キッチン// 8.風の唄を聴け// 7.優雅で感傷的な日本野球// 6.ドミノ// 5.告白// 4.沈まぬ太陽// 3.青春デンデケデケデケ// 2.親指の恋人// 1.夜は短し歩けよ乙女// 00.一言コメント










小  説

16.見えない都市/T・ビンチョン

偉大なる皇帝フビライ汗に、旅人マルコ・ポーロは55の都市の風景を語って聞かせます。やがてその問答は夢と現の境界線をなくしていきます。
「我々がいないか、回りの世界がないか、どちらかなのだな」
と言うフビライ汗に、
「いやはや、我々はここにおります」
とマルコ・ポーロは答えます。
小説の登場人物は、確かにそんなポジションなのだなと思います。
語られる都市は、すべてあわせて一つの都市になるのであり、またそのどれをとっても都市たりうるものです。都市論と言ってしまうのは簡単ですが、物語の構造の奇妙さや、ここで語られているものは都市のほかになにがあるのかを考えてみると、すこし恐ろしい小説。
15.変身/F・カフカ
朝起きたら巨大な昆虫に変わっていた自分を発見して、「これはどうしたことか」と冷静に考えている主人公にまずウケました。そんな姿になってもなお電車に乗って出勤しようとしている姿にウケました。
奇妙な小説です。
村上春樹を論じた書籍で読んだのですが、ここに描かれているのは、常に「毒虫に変わった後のせかい」――毒虫が現れた瞬間に、世界は毒虫を組み込んだものに姿を変えている。毒虫は、家族にとってとんでもない「異物」であるはずなのです。しかし家族らは、毒虫のことをある意味で受け入れる。「まあそういうこともあるだろう」くらいに考えている。
奇妙です。
でも、たとえば自分が驚くとき、その瞬間その驚きは、予定されていたものだということ。
一般的に「毒虫」とされるザムザの姿ですが、カフカはそれを「扉の奥の暗闇にいる何か」として描かれることを希望したといいます。得体のしれない何かがひそんでいる、多分、我々の身近なところにも。その奇妙さに目を向けさせられる小説の一つ。

14.まなざしの記憶-だれかの傍らで-/植田正治・鷲田清一

小説ではなくエッセイです。私の好きな写真家・植田正治と、私の好きな鷲田清一がコラボってる。これは読むしかあるまい。
鷲田清一氏のエッセイの傍らに、植田正治氏の写真が添えられている形。それとも逆?どっちでもいいや。植田正治氏の、時間を切り取ったような、静止した写真が好きです。窓から飛び降りている写真にしても、映画のフィルムを切り抜いたような、「カチッ」とした写真。とても温度が低いのです。クール、とも言ってしまえるのかもしれませんが、それとはちとちがう。なんでもない傘や、花や、人が、ポーズをとるわけでもないのに、ひんやりと、生命を奪い取られて写真におさまっているかんじ。あるのは、記号なのかな。
身体論を随所で説く鷲田清一氏の文章が、それらのひんやりした写真の補填をする。ただ、だからって何がわかるわけじゃない。夏、音の消えた昼下がりに開きたくなる本。

13.ゴーストバスターズ/高橋源一郎

全ての物語が急速に収束していくラストに感動。加えて事前に『ゴジラ』『ペンギン村に陽は落ちて』を読んでいると、面白さ倍増。そういえば『日本文学盛衰史』も読んでいたのですが、卒論製作時のどさくさにまぎれて必死で読み切ったので、面白かったけど今となってはあまり内容を覚えていません。機会があったら買おうかしらん。
「ゴースト」なる存在におびえ東へ向かう人々。「ゴースト」を捕まえるために、西へと向かう二人のギャング。軽快な語り口で進められる、「冒険小説」。あちらこちらに冒険するけど、なぜ冒険小説と名付けられているんだろうか。なぜこんな、全編に悲しさが漂うんだろう。これが、死にかけの世界で書かれた死に向かう小説なのだろうか。ラストシーンにともる遠くのかすかな炎の揺らめきは、幻なんだろうか。読み終えた後脳裏に残る悲しさの余韻は、この素晴らしいラストシーンで、やさしさに変わる。

12.世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド/村上春樹

「世界の終わり」と「ハードボイルド・ワンダーランド」、二つの世界が交差しながら織りなされる。
「世界の終わり」とは「ハードボイルド・ワンダーランド」に暮らす主人公の無意識化に形成される世界であり、「ハードボイルド・ワンダーランド」は一応『現実』の世界。でもどちらも小説の中の世界。
村上春樹の小説を読んで、心の底から「オモシロイ」と思ったのは、これが初めてだ。村上春樹作品を論じた文章とあわせて読んで、ああこの人は天才だと本当に思った。
『灰羽連盟』との類似の多さに驚愕。とおもったら、『灰羽』の監督さんは、この物語にインスピレートされて作品を作ったらしい。どうりで。
だから、どちらの作品も、よく似て総じてさみしさが漂っているんだろう。

11.コインロッカー・ベイビーズ/村上龍

蓮実重彦『小説から遠く離れて』を読んで以降、気になっていた作品。コインロッカーの中に捨てられた二人の子ども、キクとハシ。コインロッカーで生き残った子どもは二人しかいなかったので、二人は「双子」。海底に眠る破壊の力「ダチュラ」を求めるキクと、人気歌手としてなりあがったハシ。「肉体的」で行動派なキクと、「精神的」なハシ。
物語の双子は高確率で「対」になるらしい。

10.さようなら、ギャングたち/高橋源一郎

意味がわからない。なんじゃこら。
でも、なぜこんなに悲しい気持ちになるのでしょう。世界は私たちがいる世界と大きく様相を異にしているというのに、なんでこんなに既視感があるのでしょう。 「小説」とは何なのか。そして「文学」とは? この人は常に問い続けています。だから、多分これは「文学」ではありません。「小説」でもないと思います。そういう区分が無意味であり、意味があることに意味を求めるのではありません。なぞかけみたいですがそういうことです。

9.キッチン/よしもとばなな

「TSUGUMI」をはるか昔に読んだことがある程度だったのですが、よしもとばななの小説は、なんとなく、生活のにおいがします。それも、いろんなものが入り乱れる臭いじゃなくて、特定の一品です。

8.風の歌を聴け/村上春樹

意味がわからない。
物語全体にあふれる、空疎な感じはなんだろう。

7.優雅で感傷的な日本野球/高橋源一郎

この物語の「野球」「日本野球」を、すべて「文学」に置き換えて読んでみたら、たいへん愉快であると思います。大変オモシロイ小説です。

6.ドミノ/恩田陸

数多くの登場人物。彼らの行動が東京駅を中心に、ドミノ倒しのように次から次へと連鎖していく物語。何度も場面転換するのに読者を迷わせない腕前には感嘆。でも、一気にガーッと読むべき作品、という気もしたので、重たい本を読みたい人にはお勧めしません。長距離電車にでも乗るときに読んでみると、夢中になれることウケアイです。恩田陸は「球形の季節」や「遠野物語」などといった、奇妙に歪んだ現実の、その独特な世界観が好きなのですが、この作品はナマの「現実」が舞台で、そこで織りなされる物語だったのが、不満といえば不満か。

5.告白/湊かなえ

「今年一番後味の悪い本ランキング」ベスト10にランクインしてそうな本。まず最初に思い出したのは、「そして静寂の扉を」(←担当クラスの生徒に娘を殺された高校国語教師が、終業式の日に教室に立てこもり、生徒を一人ずつ殺していく話。中学生のころに国語のF先生から貸してもらって読みました)(F先生大好きです)そのあとは宮部みゆきの直木賞受賞作「理由」(事件の関係者が、一人ずつ事件のことを物語っていく形式で真実が解き明かされてゆく)を思い出しました。二つを混ぜて十時間くらい煮付けたような風味でした。
お話としては十分楽しめます。話も大変わかりやすい。ただこの「わかりやすさ」って怖いよね。この本に書かれていることは、いうなれば、「メディアが声高に叫ぶ世論」ではなくて、「決して表には出ないけれどみんな思っていること」だと思います。実際の事件が作中に挙げられていることも拍車をかける。そこがまた面白いし、この本が短期間で十四万部も売り上げた原因ではないでしょうか。
まあ、私が一番ウケたのは、「世直しやんちゃ先生」ですけどね。何そのネーミング! あとは、第三章にでてきた「お母さんの日記」。酒鬼薔薇聖斗事件の加害者の母が書いた「少年A-この子を産んで-」に似ていて驚いた。参考文献程度にはしたのかもね。

4.沈まぬ太陽(全五巻)/山崎豊子

圧巻のスケールで描く社会に渦巻く黒い闇。とでも書けば映画の宣伝文句のようだが、この物語はハリウッド映画だと思った。
『白い巨塔』につけ『不毛地帯』につけ、山崎豊子はこのような男性像が好きだなあと思った。就職活動前に読み始めて社会にゼツボウしたことは内緒だ。

3.青春デンデケデケデケ/

誰もが経験したはずの青春時代。
無我夢中な感じがとても好きな小説。これがいわゆる私小説か?

2.親指の恋人/石田衣良

石田衣良クオリティー炸裂……。
なんていうか、脇役頭悪すぎです。とくに彼女のオヤジと主人公のオヤジ。イライラします頭悪すぎて。つまりひねりがなさ過ぎて。格差を描くならもっとしっかり書きなさい。家庭環境は成績と如実に連動しているのです。夕食のマクド率と肥満と家庭環境とは実は関係しているかもしれないのです。本当の金持ちの息子で、本当に優秀な息子なら、そもそもこのような「空虚感」を抱かないかもしれません。なぜならそれが当たり前だから。あと一番腹立つのは冒頭に出てくる新聞の文章、もうちょっと何かなかったんか。
毎日新聞日曜版に連載中の「チッチと子」はなかなか面白く読んでますがね。「バクマン。」の如く作家業を暴露ってるから。もともと石平さんは、格差社会を説くような社会派じゃないはずでしょうに。この人の最盛期は「4teen」やったと切実に感じる。

1.夜は短し歩けよ乙女/森見登美彦

「絶望先生」のなかでパロディーにされていたのが面白かったです。最近は、こういう「ちょっと頭いいかんじの小説」が人気ですね。文体が大変面白いです好みです。でも、それは語り口ゆえの面白さなのか、他の作品も読んでみないと分からないなあ。










一言コメント集

流行歌-西條八十物語-/吉川潮
これをマンマ舞台にしたら、『カナリア‐西條八十物語‐』になるわ、と思った。

ドリームバスター1〜3/宮部みゆき
宮部みゆきのファンタジー代表作はこっちだと思う。

赤目四十八瀧心中未遂/車谷長吉
泥臭さがただよってきそう。

ばいばい、アース(全四巻)/沖方丁
読み切る前に謎かけを解いてしまったオモイデの一冊。
ディズニーランドがどういうものか知りたい人にお勧め。

土と兵隊・麦と兵隊/火野葦平
「これは小説ではない」と語る筆者の言葉が重い。

阿房列車―内田百闖W成(1)/内田百
借金してまで汽車に乗り、用事もないのに大阪旅行。
この人の生き方、好きです。

SoulMusic, Lovers , Only/山田詠美
著者名のローマ字表記が「Emy Yamada」になっていてかわいい。

溺レる/川上弘美
このさみしい感覚はわたしにはまだ分からない。わからない。

最後の息子/吉田修一
なんか好き。

智恵子飛ぶ/
泣いた。

代筆屋/辻仁成
あっ、これが小説っていうのか!

私の嫌いな10の人々/中島義道
エッセイ。すごいタイトル。

ホームレス中学生/田村裕
映画化する必要はなかったと思う。

チグリスとユーフラテス/新井素子
何べん読んでも「マリア・D」の章で泣く。

優しいサヨクのための嬉遊曲/島田雅彦
考えるな考えるな。きっとそれが平和に生きる道。
これが現代人のやさしさなんだ。

海からの贈り物/アン・リンドバーグ
じんわり染みいる。雨の日、窓辺で読みたい。

夕鶴/木下順次
これぞ純愛。

ビタミンF/重松清
苦手……。

パイロット・フィッシュ/大崎善生
透明な感じが好き。

神の子ども達は皆踊る/村上春樹
ノルウェイよりこっちのほうが面白い。

ノルウェイの森/村上春樹
世間で言われているほど純愛でもないだろう、これ。

童話物語/向山貴彦、宮崎香里
げんきになれる。

アド・バード/椎名誠
世界観がちょう好き。

イン・ザ・プール/奥田英郎
なにをどうすればこんなものが書けるのか。

ブルータワー/石田衣良
オチが安い。

レキオス/池上永一
わけわからん。

世界の終わり、あるいは始まり/歌野昌午
最初の数十ページとラストだけ読めばいい。

首輪物語/清水義範
表紙がさらにわらえる。個人的には亀に噛まれてスーパー人間になる『キッコーマン』が好き。この人のセンスは病みつきになる。

風車祭(カジマヤー)/池上永一
長編だが、一気に読ませられる。沖縄に行きたくなる本。

ZOO/乙一
この人は天才か変態。

家守奇譚/梨木香歩
こういう家に住んでみたい。

トリツカレ男/いしいしんじ
ほわんとしているのにどこか毒を含んだ、いしいしんじの作品が好き。

巷説百物語/京極夏彦
何べん読んでも面白い。

ダ・ヴィンチ・コード(上・中・下)/ダン・ブラウン
話のタネに。

アルジャーノンに花束を/ダニエル・キイス
中学生のころに一度読んで、改めて読んで、過去の私の馬鹿さ加減に泣きたくなった。

ハツカネズミと人間/スタインベック
もともと戯曲向け?の小説らしい。近代文学ってかんじ。

陰日向に咲く/劇団ひとり
芸人の本にしてはずばぬけて良作。

シンドラーズ・リスト/T・キリーニー
映画とあわせてどうぞ。

ノーザンライツ/星野道夫
本から顔をあげたとき、自分が今カムチャッカ半島にいないことを疑問に思う。

浮雲/二葉亭四迷
おもしろい! よくわからんけどオモシロイ!!
近代文学の祖といわれる作品だが語り口は講談調。

サウスバウンド/奥田英郎
奥田英朗の作品に出てくる中年は変人ばかりなのか。

嫌われ松子の一生/山田宗樹
映画が気になる。

貝になった子供/松谷みよ子
感受性を分けてほしくなる。