カルマの坂-4 |
「彼らの暮らしは、まったくもって酷いものです。改善されているようすはないようですし、改善する兆候もありません」 「……」 「いかがしましょう。盗みを働いたり、ものを壊したりと、住人への被害も少なからぬものです。彼らを放っておくのは良策とはおもえません」 「――で? あなたは何を望んでいる」 「わたしですか? わたしは、この町の平和を取り戻したいだけですよ」 「平和ですか」 「あなたも住んでみれば分かりますよ、この町は堕落しきっている。手の施しようがないくらいに」 「意外ですね、あなたからそのような言葉が飛び出すなんて。――本当の望みはなんなのです」 「話が早くて助かります。先ほども申し上げたように、治安維持をお願いしたい。具体的に言いましょう。あのわずらわしい浮浪者どもを一掃したいのですよ」 「それはつまり」 「話はここからです。まあ聞いてください。あなたにとっても、不味くないお話になるとおもいますよ? じつはですね――」 + + + 次の日、俺はいつものように食料調達のため、パン屋(昨日とは別の)の前に隠れていた。 今日はラッシュは一緒じゃない。何でも用事があるそうで、朝起きたときにはラッシュは出かける直前だった。 「用事って、なんだよ」 「気になるかい?」 「別に」 「じゃあ聞かなくていいよ」 まったく。 所詮数日前に知り合っただけの「他人」だ。あいつがいなくなろうと飢え死にしようと俺が気にする必要もなければ、俺が捕まろうと何しようと、あいつの知ったところではない。 いつの間にかパン屋のドアが開いて、OPENの札がかけられていた。俺は立ち上がった。いつものようにパンを頂戴して、逃げる。オヤジはすぐに気が付いて追って来ようとするけれど、そのころ俺はすでに、店のオヤジが豆粒ほどの大きさになったところにいる。 十分逃げた後で立ち止まる。ちょろいもんだぜ、とか思った瞬間、前から誰かが走ってきた。 俺はすばやく物陰に身を潜めた。追われているのは、俺より三つ四つ年下の子供だ。ガキが目の前を駆け抜けてすぐ、その後を二人の警官が追いかける。 しばらくして――さほど遠くない場所で、こどもの泣き叫ぶ声が聞こえた。俺はそこで、物陰から出た。あいつのかけていった方向には、もう人影はない。 ふと、昨日見た奴隷の姿が脳裏をよぎった。だが、あそこで俺が手を貸していれば、俺もその列に加わっていたかもしれない。 ――いやなもんを見ちまった。 俺はあいつの通った道を通る気になれず、普段はあまり通らない通りにでることにした。この町では、道を歩くやつらの九十パーセントは浮浪者で、残り十パーセントは金持ちと偽善者で占められている。俺をとがめることなんて、誰にもできないし、させない。 ――そのとき俺が、いつもと同じ道を通って帰っていたならば、なにも問題は起こらなかったはずだった。 俺はその道で、天使に会った。 |